数学の難問を解くセンスを身に付ける小話~『容疑者Xの献身』より

内海「石神先生の作る問題は難しそうですね」
石神「難しくはありません。単純な引っかけ問題ばかりですよ」
草薙「引っかけ問題?」
石神「例えば、幾何の問題のように見えて、実は関数の問題だとか。少し見方を変えれば解けるはずなんです」
                              映画『容疑者Xの献身』より

難問というのは一見して難問とわかるものと、表面的には平易に見えるてもいざやってみると答えに辿り着かず、気が付くと恐ろしく時間を食ってしまっているという難問があります。

初めから難問とわかっていれば警戒して臨むことができるし、戦略として後回しにしいたり捨て問題として無視したりすることができる分、後者の方がはるかに厄介です。

『容疑者Xの献身』という作品で、容疑者Xが仕掛けるアリバイトリックは上質の難問です。単純なトリックも、探偵側が最初の前提の認識を間違えて初手を誤れば、一気に難問に化けてしまうのです。

数学の難問にはこのような仕掛けを施されていることがしばしばあります。具体例を一つみてみましょう。

平面上に2定点A, Bをとる. cは正の定数として, 平面上の点Pが
\(|\overrightarrow{PA}||\overrightarrow{PB}|+\overrightarrow{PA}\cdot\overrightarrow{PB}=c\)を満たすとき, 点Pの軌跡を求めよ.

1999 京大(理系)

こちらは1999年京都大学(理系)の第2問です。

設問に与えられているのはベクトルで表記された式ですから、多くの受験生はベクトル単元の知識や解法の中から、解答の糸口を見つけようと試みたことでしょう。しかし、典型的な解法の1つである、定点A,Bを座標設定して式に当てはめるという方法を実行してみるとなかなかに計算が面倒で、もっともシンプルで計算しやすい座標設定を行ったとしても苦戦します。

ここで、ベクトルの本質に返ってみましょう。

ベクトルは、幾何を定量化したものです。成分という数量から「向き」と「大きさ」がわかり、「向き」の始点を原点にすることで、ベクトルは「座標」を定義することができます。ベクトルを組み合わせることで多角形を表現することができ、成分を3次元に拡張すれば立体の表記をすることも可能です。さらに、絶対に記号を用いれば、「円」や「球」を表すことができます。図形という定性的なものを定量的なものに置き換えて、計算処理を可能にしものがベクトルなのです。

さて、この京都大学の問題も、ベクトルからいったん考えを遠ざけて、幾何学の問題ととらえなおしてみましょう。

PA=a

PB=b

AB=d

∠APB=θ

として、余弦定理を用いてcosθを求めてください。そして上記の値をベクトル方程式に当てはめてみましょう。すると

a2+b2+2ab=2c+d2

(a+b)2=2c+d2

と計算でき、a+bの数値が定数ということがわかりました。
このa+bは定数になります。
PA+PBの値が一定である。これは、AとBを定点とした楕円の性質です。
教科書には焦点をFとFとしたときPF+PF=2a(2aは長軸の長さ)と書かれているものです。

これ気付くことができれば、最後は楕円の基本公式を利用して仕上げます。

「ベクトルの問題」のように見えた「楕円」の問題はいかがだったでしょうか?

「対極を捉える」というのは、有効な思考法の一つです。今回用いたのは、「定量」の対極である「定性」を考えることで、解法の糸口を見つけました。

ぜひ真似してみてくださいね。

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